ナスカの地上絵、目的が明らかに AIによってナスカ調査が加速 具象的な地上絵の数がほぼ倍増

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山形大学ナスカ研究所とIBM研究所の共同研究により、AIを活用したナスカ地上絵の調査が進展し、既知の具象的地上絵の数がほぼ倍増。6か月間の現地調査で新たに303個の地上絵が特定され、これによりナスカ台地で確認済みの地上絵の数は大幅に増加しました。


山形大学 2024年9月24日発表 プレスリリース

AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった

本発表の主なポイント

  • 山形大学ナスカ研究所とIBM研究所の共同研究プロジェクトの成果が、Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) に掲載されることが決定した。
  • AIによって加速化された調査によって、6か月間の現地調査で新たに303個の新地上絵が特定された。これにより、ナスカ台地で確認済みの地上絵の数はほぼ倍増した。
  • 巨大な線タイプの地上絵は、主に野生動物が描かれており、直線と台形の地上絵によって構成されるネットワークに沿って分布している。これらは、共同体レベルの儀礼活動に使用された。
  • 小型の面タイプ(レリーフタイプ)の地上絵には、人や家畜(ラクダ科動物)などのモチーフが描かれている。このタイプの地上絵は、曲がりくねった小道から見える。個人または小集団によって使用された。

概要

山形大学ナスカ研究所とIBM研究所の共同研究の成果が、米国科学アカデミー紀要[Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)]に掲載される。論文名は”AI-accelerated Nazca survey nearly doubles the number of known figurative geoglyphs and sheds light on their purpose “(AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった。)です。現地調査を効率的に実施するためには、地上絵が分布している可能性が高い場所を同定する必要があった。そこで、人工知能の助けを借りて、飛行機から撮影した膨大な量の空中写真を分析した。その結果、わずか6か月間で303個の新しい具象的な地上絵を発見した。IBMのAIを使用することで、地上絵の発見率が16倍も高まった。面タイプの具象的な地上絵が大量に発見されたことで、これらは線タイプの地上絵とは、様式・規模・分布において差異があることが分かった。線タイプと面タイプでは、モチーフにも差異がある。前者は、直線と台形のネットワークに沿って分布しているが、後者は曲がりくねった小道沿いに分布している。線タイプの具象的な地上絵は、共同体の儀礼のために制作された。一方、面タイプの地上絵は、小道から見える「掲示板」のようなもので、主に家畜や首級に関連する活動を共有するために制作された。

背景

ナスカの地上絵は、ユネスコの世界文化遺産として広く知られている。これらの地上絵は、少なくとも2000年以上前に描かれ、1920年代に発見された。これまでの研究では、動物や植物、道具などを描いた具象的な地上絵が430個確認されており、そのうち318個を山形大学ナスカ研究所がリモートセンシング技術(人工衛星、航空機、ドローン)を用いて発見した。しかし、ナスカ台地は約400平方キロメートルに及ぶ広大な地域であるため、高解像度の航空写真を全て目視で確認し、全域の現地調査を実施することは時間的に困難である。この調査を加速するために、山形大学とIBM研究所が提携し、IBMの先進的な人工知能技術を活用した。その結果、本研究は米国科学アカデミー紀要(PNAS)に受理される運びとなった。

研究方法と結果

地上絵発見にAIを使用する際の課題の1つは、トレーニングデータの量が限られている点である。この課題に対処するため、IBM研究所は、少量のトレーニングデータでも高いパフォーマンスを発揮する強力なAIモデルを開発した。このモデルにより、地上絵が存在する可能性の高いエリアを特定することが可能となった。AIモデルが提示した地上絵の候補の中から、平均36件を精査することで、地上絵の可能性が高い候補を1件見つけることができた。これはこの種の作業において画期的な成果である。合計1309件の有望な候補が特定され、その約4分の1について現地調査を行った結果、わずか6か月間で303件の新たな具象的地上絵が発見され、既存の具象的地上絵の数はほぼ倍増した。具象的地上絵の数が増加したことで、ナスカ台地における地上絵のモチーフや分布の分析が可能となった。面タイプの地上絵には、人間自身や人間によって飼育された家畜、加工された首級などが主に描かれている。これらの地上絵は通常、ナスカ台地を縦断する曲がりくねった小道から見える。おそらく個人または小規模なグループが制作し、観察していたと考えられる。一方、巨大な線タイプの具象的地上絵には、主に野生動物が描かれている。これらは、直線や台形の地上絵ネットワークに沿って分布しており、おそらく共同体レベルで儀式的な活動のために制作・使用されたと考えられる。

今後の展望

  • IBMの地理空間基盤モデルを活用して、AIの能力をさらに向上させることで、さらに多くの地上絵の発見につながる可能性がある。
  • 地上絵の可能性が高いと特定した968の候補地について現地調査を行うことで、さらに多くの新たな地上絵が発見される可能性が高い。
  • AIによる現地調査の結果、100本以上の小道に沿って1000点以上の面タイプの地上絵が分布していると推定される。文字を持たなかったアンデス文明では、土器や壁、布などに描かれた絵の組み合わせに、社会的に重要な情報が書き込まれている例が多くある。したがって、1000点以上のナスカの地上絵の分布にも、ナスカ社会にとって重要な情報が含まれていると考えられる。今後、この情報の解読に取り組む。
  • LIDARデータを使用して、ナスカ台地の小道を歩く際の視覚体験を再現することを試みる。
  • 地上絵に沿って分布する土器に関して、AIを活用して、時期決定のスピードと精度を向上させる。
  • 近隣の山での大雨によって深刻な洪水の影響を受ける可能性が高い地上絵を、LIDARデータを使用して特定し、ペルー文化省と協力して、それらを保護する活動を展開する。

※詳細はプレスリリースをご確認ください。

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